【2】木村一成の発見
◆名古屋を歩いて見つけたこと◆ 木村一成
以前からぼんやりと感じていたのですが、歩き始めて改めて気づいたことは、ちがごろの名古屋市内では、街路の彼方に見え隠れする超高層ビル群が、古い看板や地蔵の祠、人の営みなどと妙に馴染んでいることです。
新しいものも、そこに存在するかぎり、時間を刻み過去をもちますが、それらより遥かに昔から存在し、歴史的な評価を受けたものとの間に違和感があるどころか、風景すべてが懐かしく親和していくようすが、不思議でなりませんでした。
このとらえどころのない懐かしさをたよりに、「叙情」というものの正体を探してみようと、市内各地を歩きつづけました。1年半におよぶ探訪では、この街に生きる人びとの泥臭さや親しさが、名古屋を“安気に暮らせる街”へと育ててきたことを実感しました。
かつて「白い街」と呼ばれたネガティヴな表現が名古屋から消えたのも、整えられた街の美観ばかりではなく、名古屋人のその飾らない心根が、街の美質として見直されてきたからなのでしょう。出会った人びとの表情に、忘れ難い懐かしさを覚えたのは、そのせいかもしれません。
■『叙情都市名古屋』のご注文は→こちら